第4章:その部屋は誰のもの?

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「繭の部屋」という言葉が何を指すか、ピンと来ないプレイヤーも増えただろう。

「繭の部屋」とはウィクロスにおける禁止・制限カードリストのことだ。アニメではセレクターバトルの黒幕・「繭」という少女が住む部屋のことであり、悪さをしたカードたちはそこに送られるというフレーバーで、そう命名されている。禁止カード、枚数制限カード、同時使用制限カードがあり、特にオールスターでは凶悪なラインナップが多数並んでいる。カードパワーの調整に苦心しただろうキーセレクションでさえも何枚か存在しており、ゲームデザインの難しさがうかがい知れるものだ。

ディーヴァセレクションのカードは、2025年9月まで、1枚たりともそこに名前が刻まれることがなかった。
後に「ルリグタイプが同じで色の異なるルリグ」を同時に採用できない、というディーセレ独自の「繭の部屋」が制定されたが、それはルール整備の側面が強く、「他の様々なデッキ選択やカード選択の可能性を極端に狭めてしまう」「一方のみが極端に制限時間を消費し、ゲームの進行に大きな影響を与える」とされるカードは生まれていない、という判断がされている。ディーセレが始まって5年、カードの使用制限無しに成り立っていたのは、奇跡的なものといえよう。

2022年7月時点、当時を思い起こすと「《羅原姫 H2O》を2枚制限にしてほしい」「【ダッシュヒラナ】を規制しろ!」などの声は小さくなかった。私怨かもしれないし、筆者の周辺の声ゆえバイアスがあるかもしれないが、「他の様々なデッキ選択やカード選択の可能性を極端に狭めてしまう」カードかと言われれば、今となっても、当時でさえもそうは感じなかった。実際、繭の部屋に連行されたカードたちの所業を思うと、「極端に狭めてしまう」「ゲームの進行に大きな影響を与える」の言葉の重みは、《羅原姫 H2O》のそれと比べればかわいいものだ。

ところで、メタゲームを変えるにはどうすればいいのか?
答えのひとつ。それ以上のパワーを持ったカードを作ればいい。弱肉強食、諸行無常。それが理なのだから。

1:コントロールの申し子、誕生

2022年7月上旬に発売された10弾「PRISMATIC DIVA」。
ここではリメンバ、花代、ミルルン、緑子、ハナレの5ルリグがセンタールリグとして参戦した。アプリ「アイドルランドプリパラ!」とのコラボ弾であり、同作に登場したアイドルたちが、クラス<プリパラ>としてシグニとなって登場した。

タカラトミー公式サイトより

メタゲームで大きな転換点を迎えた弾であり、そのすべてが《共宴の巫女 リメンバ・ディナー》に集約されている。

起動能力による安定した手札補充、ゲーム1能力の制圧力、ルリグアタック時のシグニ1体の凍結と、とにかくコントロールに秀でた能力が揃ったルリグだ。これらの全てが特に【DXM】や【原子デウス】に刺さり、明らかな「天敵」として君臨することとなる。

現に、発売翌週に開催された7月のディーヴァセレクション3rdでは、リメンバは分布最多のルリグとなっている。その背景には、リメンバがそもそも白ルリグであることから《コードハート リメンバ//メモリア》を筆頭に白シグニを採用しやすい点がデウスたちに強く出られるという点があったり、【白単】系の知見が【白単アキノ】などで蓄積されていたこともあり、強豪プレイヤーを中心にリメンバの事前開拓が進んでいた、と考えられるだろうか。現に【白単】系の注目度は高く、リメンバに次ぐ同大会の分布第2位は、デウスではなくタマであり、ベスト16には【白単ドーナ】が勝ち残っている。

そんなディーヴァセレクション3rdでの【リメンバ】の構築は多種多様で、知見を下敷きにした【白単リメンバ】のほか、エナをほとんど使わないことから《宇宙級母性》を採用したタイプや、《聖将姫 コウメイ》や《アフタヌーンティーショー》でエナを稼ぐタマの亜種のようなタイプなど、さまざまな試行錯誤が見られていた。リメンバの中で最高成績は最終3位。アシストルリグに青のマドカ・黒のマキナを置き、《マイアズマ・ラビリンス》を採用した【ハンデスリメンバ】で、今後のリメンバの主流となっていくデッキタイプだ。

では、そんなデウスはというと、ディーヴァセレクション3rdでのルリグ分布は3位。最終戦績は優勝、準優勝のワンツーフィニッシュだ。

1位は【原子デウス】だ。だが、アシストルリグがこれまでと異なる。マキナの枠をゆかゆかに変え、レベル2に《ゆかゆか☆ぴーひゃら》を採用した斬新なアーキタイプだ。

リミット9を作り出し、《羅原姫 H2O》を3体並べて押しつぶす。アシストルリグでの防御面こそ減るが、耐性を持ったパワー13000の《H2O》であれば全く問題ない、ということだ。プレイヤーは【原子デウス】を世に知らしめたわっく選手。この【笛デウス】はその盤面のインパクトと、冗談のような見た目に反する確かな強さ、そして「GP優勝」を手土産に、今後の【原子デウス】のアーキタイプのひとつとしてあり続けることとなる。

2位もデウスだが、こちらもアシストルリグが異なる。従来のマキナの枠がアンジュになっており、メインデッキには《幻水姫 シィラ》《聖天姫 エクシア》など、白の強力なシグニが多く採用されている。《コード2434 シスター・クレア》《コードメイズ ウェカワ》《凶魔 パイモン》のロングショット基盤も取り込まれており、幅広い相手と渡り合える構築だ。ピースもこれまで評価が低かった《ウルトラスーパーヒーローズ》で、《コードラビリンス ムジカ//メモリア》《羅星姫 ミュウ//メモリア》など最新の黒カードも採用されるなど、使い手のhyakko選手のデッキ構築センスがこれでもかと詰まったオリジナルだ。

この2人の他に、ベスト16に【原子デウス】が3人、【チームエクス】が2人残っており、16人中7人がデウス、エクスとなっている。シェアとしては半分を占めるが、デッキ以上に使い手の実力によるものも大きく、「デウスやエクスを使えばある程度勝てる」という環境が、徐々に終わりに近づいていることが伺い知れる。また、上位2人の【デウス】はこれまであまり世に知られたものではなく、《ゆかゆか☆ぴーひゃら》や「ウェカワパイモン」といったギミックを取り込む発想力や胆力、そしてこれまでに培ったプレイヤーとしての実力が絡み合っての結果であろう。

さて、そんなセンセーショナルな結果と共に幕を開けた10弾環境。プレイヤーたちはその結果を「デウスの優勝」ではなく、「デウスの減少」「リメンバ環境到来の予感」として受け止め、ここから【リメンバ】のブラッシュアップが進むこととなる。特に【ハンデスリメンバ】は、リメンバのコントロール性能の高さと相まって、そのコンセプトがマッチ。各地のセレモニーなどで構築が模索され、細かな採用カードやプレイスタイルが洗練され始めた。
同弾で登場した《ウリス・スケアー》《ウリス・アフリクト》をアシストルリグに採用し、《ウルトラスーパーヒーローズ》も含めてデッキ破壊をねらったタイプや、《羅原姫 H2O》や《凶魔姫 アンナ・ミラージュ》、《羅原姫 Zr02》も入れて攻撃性能を高めたタイプなど、プレイヤーの好みや地域のメタゲームなどで、主流となる構築が生まれては消えていった。無論、《蒼魔 マノミン》などを厚く採用し、ハンデスに寄せたリメンバも登場している。

そんな中で特に評価を上げたカードの1枚が、8弾「SPREAD DIVA」で登場していたピース《ウルトラスーパーヒーローズ》だ。

登場直後は2つのモードまでしか選べない点が懸念されていたが、よくよく性能を見てみると「1エナで手札を2枚増やし、10枚デッキを破壊する」だけでも、コントロールが得意なリメンバと相性が良いことが、徐々に知られていった。黒の10枚落としについては、トラッシュをデッキに戻すことでリフレッシュを回避する手段が非常に少ないカードプールだったこともあり、「いつ10枚落としても一緒」という認識がプレイヤー間で広まっていき、現に《コードアンシエンツ ファラリス》を採用し、リフレッシュによるライフクロス破壊も戦略に織り込まれていった。

白のモードでは現在の「5枚見て2枚加えるアーツ」のように、ゲームの最序盤で《サーバント #》やアタッカーを探しにいくこともできるため役割が大きく、赤のモードの「パワー12000以下のシグニをバニッシュ」ができずとも十分な性能だった。《ウルトラスーパーヒーローズ》はリメンバ環境を象徴する1枚となっていった。

もう1枚が、5弾「CURIOSITY DIVA」で登場した《大装 ゲイヴォルグ》だ。

この頃は【DXM】勢が数を減らし、リメンバが数を増やしたことで、ゲームスピードがやや低速化し始めた。そのため、《リメンバ・ディナー》のアタック時の凍結などと合わせ、ルリグアタックと同時に相手のシグニをトラッシュに送り、リソースを奪う《大装 ゲイヴォルグ》の評価が急上昇。アタックフェイズ開始時に白シグニをダウンさせる点も、登場当初は「アタックの機会を手放す」という点が低評価だったが、リメンバの台頭で「余計なアタックでエナを与えない」「アップ時バウンスなどのライフバーストを避けられる」という評価ポイントに読み替えられていった。

《ウルトラスーパーヒーローズ》や《ゲイヴォルグ》は過去弾のカードだったこともあり、当時にしてはやや入手が難しく、買取価格や中古市場の販売価格は急騰。特に《ゲイヴォルグ》は【青白あや】での活躍もあったため、《聖天姫 エクシア》に匹敵する評価がされるようになっていった。

一方、逆風吹き荒れる中の【DXM】、特に【デウス】だが、まだまだそのポテンシャルの高さは健在だった。
《コードラビリンス ムジカ//メモリア》が【ソウル】と相性が良いことや、《羅星姫 ミュウ//メモリア》で様々なレベル1シグニに触れられるようになったことなどから、構築のバリエーションがどんどん広がっていった。広がっていったというよりも、デウスユーザーの熱心な研究と抵抗によるものとも言えるが、リメンバ1人の台頭で、王座から陥落すれど転がり落ちるほど、デウスは生易しいデッキではなかったのだ。

白のカードが非常に苦手で、より厳しい立場にあった【エクス】も同様に、一定の存在感を放っていた。世代交代の足音が聞こえはしても、明確なバトンタッチはもう少々先だった。

ところで、リメンバ以外のルリグや<プリパラ>はというと、メタゲームへの影響はさほどなかった。

強いて言えば《プリパラアイドル・ファルル》が「デカいマノミン」として青デッキに出張採用された程度で、「プリパラデッキ」がメタに食い込むことは最後までなかった。アイドル達の叫び声がウィクロスで響くのは、もっともっと先の未来となる。

さて、2022年7月から始まった企画が一つある。それが「夢限少女杯 セレクターポイント頂上決定戦」だ。現在の夢限少女杯に当たるもので、事実上のディーヴァセレクション日本一、あるいは世界一決定戦として位置づけられる、最高峰のイベントである。
しかしこの初回、予選の制度で大きな波紋を呼んだ大会だった。ディーセレ史を語るにおいて避けては通れないため、ネガティブな話題ではあるが、書き残しておく。

タカラトミー公式サイトより

2026年現在、「夢限少女杯」本戦の参加権を得る最もわかりやすい方法は、年4回開催される「ディーヴァグランプリ」でベスト8に入賞することだ。これに海外での予選や前回チャンプなどの招待選手を加え、本戦を開催する形式となっている。
しかしこの「セレクターポイント頂上決定戦」は、予選の制度が全く異なっていた。ディーヴァグランプリは何ら関係なく、「2022年7~10月の4か月間で、セレクターポイント(SPS)のポイントを多く集めた上位16人が参加できる」というものだった。

セレクターポイントはご存知の通り、セレモニーやグランプリの参加、入賞などで得られる。「セレクターポイント頂上決定戦」はその名の通り、期間中に多くのセレモニーに参加し入賞した「常に強いプレイヤー」による頂上決定戦を期待したものだろう。
だが、セレクターポイント制度には致命的な欠陥が一つだけあった。それは、セレクターポイントが「白窓の部屋」への参加でも得られたということだ。

タカラトミー公式サイトより

「白窓の部屋」は2021年夏に始まった制度。個人や有志が開くウィクロスのイベントに、公式がプロモーションカードやパックを支給してサポートする、というものだ。「ガチばとる」「楽しくばとる」の2種類があり、「ガチばとる」プランこそあれど、カジュアルにウィクロスを楽しむプレイヤーのための制度、という側面が強い。しかし、この「楽しくばとる」や「ガチばとる」への参加賞、または上位賞で、「夢限少女杯」本戦の参加権として重要なセレクターポイントを得ることができたことが、この時期は非常にまずかった。

何が起こったか。
夢限少女杯の予選期間中、新規の「白窓の部屋」が大量に乱立することとなった。

この時期、「白窓の部屋」のイベントはオンラインでも実施可能だった。時勢柄新型コロナウイルスの影響があり、ゆえにオンラインで白窓の部屋が開催可能だったのだ。しかし「そのオンラインの白窓の部屋は、本当に実際に開催されていたのか?」という疑惑が、プレイヤー間で広がり始めた。
一部のオンラインの白窓の部屋について「受付開始が告知されなかった」「深夜時間帯にいつの間にか開催されていた」といった証言が当時多数湧き上がっており、それらがこの「カラ白窓」の疑惑を色濃くしていた形だ。本稿執筆の際の取材の中でも、「午後9時からオンラインで白窓が開催され、その直後の午前0時にまた開催されていた」「白窓の受付開始前にトナメルが埋まっていた」などの声が、当時セレクターポイント獲得を目指したプレイヤーから寄せられている。

他にも、ウィクロスセレモニーの開催数に地域差があり、オフラインであっても物理的にSPSを得る機会に差がある点や、そもそもの「白窓の部屋」「セレクターポイント」の制度設計や予選の形式をめぐり、とにかくプレイヤー間で殺伐とした空気が広がっていた。本来の目的で、以前から白窓の部屋を開催していたプレイヤーにも飛び火するなど、SNSでは地域間対立やプレイヤー間の対立が深刻化。Twitterという、人々を対立させインプレッションを稼ぐSNSの特性もあって、その対立はさらに助長された。これを受けて「ガチばとる」プランでの開催の制限や、ルールの厳格化などもされたが、結局大きな制度変更はないまま、4か月の予選期間が行われた。

ただ、予選期間を終えて蓋を開けてみると、勝ち残った16人は「いつもの強豪たち」だった。
ディーヴァグランプリやセレモニーでの優勝、入賞常連プレイヤーばかりで、誰が見ても「納得の16人」だったのである。

仮にウィクロスの実力が乏しいために、制度を悪用して夢限少女杯本戦への出場をねらったプレイヤーがいたとしても、通常のセレモニーの優勝や入賞で得られるポイントや、ディーヴァグランプリでの上位入賞ポイントが得られず、本戦に勝ちあがることはなかっただろう。現に上位16人は4か月の期間中、遠征も含めて全国各地のセレモニーに精力的に出場し、コンスタントに好成績を収め続けていたことが、当時の大会結果からもわかる。彼らはどんなルールであれ、与えられたルールの中で競技に全力で打ち込み、結果を残した。紛れもなく強者なのだ。

12月に開催された夢限少女杯本戦に、筆者はカバレージライターとして招待された。
SNSでの殺伐とした空気はどこへやら。真剣勝負の中に、穏やかな空気が漂っていたことが印象的であり、それは一つの救いだった。

当時の予選で何が行われていたか、今となっては証言ベースでしか辿ることができない。
「Tonamel」でも2023年5月以前の大会結果は閲覧することができず、インターネットの過去のウェブページを遡るシステム「Wayback Machine」を使用しても、それ以前の大会結果を調べることはできなかった。当時何が行われていたか、実際に何があったかは、今となっては過去だ。
本稿にも、特定のプレイヤーや団体を糾弾する意図は無いことを重ねて強調する。与えられたルールの中で勝ち残った16人や、出場を目指して駆け抜けた多くのセレクターたちの日々や努力は、尊重されるべきものであることに間違いはない。

ただ、当時を知るプレイヤーや、実際にセレクターポイント獲得を目指してセレモニーに出場し続けたプレイヤーや関係者から寄せられる声の多くは、「もうやらないでほしい」というニュアンスのものが非常に多い。SPSという全てのプレイヤーに関わる制度を使い、「夢限少女杯」という競技勢のみに向けたイベントを行ったことは、明確な悪手だった。
ウィクロスへの取り組み方は、プレイヤーによって多種多様だ。競技思考、楽しくばとる、カードを集める、好きなルリグを極める、友人とだけ遊ぶ、創作に打ち込む……。多様なグラデーションがあるがゆえの、魅力あるカードゲームがウィクロスだ。だからこそ、それぞれの棲み分けは厳密に行われてほしいと、いちユーザーとして願うばかりだし、今後もその棲み分けが続くことを、強く祈っている。

その後、セレクターポイントを用いた予選大会などは行われていない。セレクターポイントのランキングはウィクロス公式サイトに掲載されるが、ランキングでの上位入賞の特典などはなく、一定期間中に一定のポイントを溜めると、プロモーションカードが貰える程度に留まっている。
年4回のディーヴァグランプリでベスト8に入賞すれば、原則誰でも夢限少女杯へと勝ち上がれる。ディーヴァグランプリは結果的に、競技志向のプレイヤーのための場となっていった。この年ほどのハレーションはその後、現時点では起こっていない。