ウィクロスの世界に相性はあれど、それが絶対というわけではない。
有利な相手だからといって確実に勝てるものでもなく、不利な相手だからといって、勝てないものではない。
ライフバースト、手札事故、体力、時の運。そして己のメンタリティ。有象無象の出来事が、勝負の女神を戸惑わせ、軍配を狂わせる。ルリグの相性など、あくまで「相性」に過ぎないのだ。

「悪い展開をね、考えちゃうんですよ……」

そんな声が、聞こえてくる。

イシイ選手(ドーナ)VSゆきちゃん選手(紡ぐウリス)

(オールラウンダーな2ルリグのマッチアップ)

「俺、これからひどい目に遭います」
決勝戦のテーブルについたゆきちゃん選手が、すがすがしい表情で言った。準決勝では少々のプレイミスはあったとはいえ、<エニグマ・オーラ>を3連打し、<ブラジャック>でタウィルを圧倒した彼。自虐気味に、しかしどこかすがすがしい表情で、筆者に伝えた。
「オールスターでここまで勝てるとは思ってなかったし……、まあまあまあ」。言い聞かせるようにつぶやく。「まあまあ」の真意は、推し量ることができない。

対するイシイ選手は、青白い表情をしている。
ドーナの名手として、オールスターの多くのセレモニーで結果を残している彼ではあるが、メガネの奥に揺れる瞳はどこか虚ろだ。
「悪い展開を考えている」。冒頭の言葉の主は彼だ。じゃんけんで後手を取り、4枚という多いマリガンをしたことによる表情ではなさそうだ。言うなれば、目の前でするりと逃げていった……。

「イシイさん、昨日に続いて2位は、ないっすよね?」
「いやいや、今日は行きますから!運来てるから!」

お互いを良く知る2人だからこそ、軽いジャブは日常茶飯事。ゆきちゃん選手の軽い挨拶が、イシイ選手の苦い思い出を想起させる。つい前日のセレモニーで、彼は2位入賞。聞こえはいいが彼にとっては、「目の前で世界大会の権利を取り逃した」、悔しさの方が大きい。どこかリラックスしている両者だが、しかし緊張感も漂う。
写真撮影を終え、オープンのコールでゲームスタート。勝者が世界大会への切符を勝ち取ることができる、最後の試合が幕を開けた。

先攻ゆきちゃん選手のターン。「目標は5に乗ることかな」と、ネガティブな言葉を交えながら、<ニホニンギョ>をチャージしレベル1へ。
<メイジ>を切ってコインを得て、<ハッカドール1号>から<ミヤコケシ>。手札を伸ばし、<ミヤコケシ>の効果で<ウンテイ>を拾ってターンエンド。理想の立ち上がりだ。


(ハッカウンテイ、ハッカカルタ、ハッカシャテキ。アドが溢れる魔法の言葉)

イシイ選手のルリグはドーナ。幾多のバトルを共に戦った、彼が絶対の信頼を寄せるルリグだ。
<タマモゼン>をチャージし、グロウ。<スノークイーン>を切ってコインを得て、慎重に<イシナゲンジョ>を場に出した。出現時でデッキからレイヤーシグニをサーチする。
入念にデッキを見つめ、目を閉じ、ゆっくりと加える1枚を考える。選んだシグニは<スナカケ>だ。バーストもしっかり確認。こくりと小さくうなずき、シャッフルを託した。
そして<ケセパサ>を立ててアタックフェイズ。<イシナゲンジョ>で<ミヤコケシ>を踏むと、<ケセパサ>とルリグで2点。ターンエンドで5-7だ。

(ドーナが持つ安定の初動。ほぼ全ての怪異シグニをサーチできる)

先に仕掛けたのはゆきちゃん選手だ。
レベル2へグロウし、<エニグマ・オーラ>をプレイ。イシイ選手の表情がゆがんだ。
<1号>からの<ウンテイ>でエナと手札を伸ばし、アタックフェイズ。表情を戻し「考えますね……」と答えると、コインを手にかけ、<ぶりっつあーや>をアンロックした。
後攻であれば、正確にいえば「相手のルリグのレベルが自分より高い時」であれば、アタックフェイズ中にアンロックできるキーカード。出現時効果で、<1号>をデッキトップに戻した。防御を終える。
もう1枚の<1号>がライフクロスへとアタック。ライフクロスはから見えたのは<フゥライ>だ。幸先の良いかのように見えるが、イシイ選手は淡々と、別の<フゥライ>を手札に加える。そしてルリグアタック。これが通り、<エニグマ>で2点のライフを回復すると、エンドフェイズには7-5と、両者のライフがひっくり返っていた。

(突然の除去にダウン凍結、挙げ句の果てにスペル無効。デッキの勢力図を塗り替えた1枚)

イシイ選手のターン。<カラテン>をチャージし、レベル2へグロウ。「手が震えてるなあ……」と、イシイ選手は己の緊張に戸惑いながらも、<スナカケ>を置いてアタックフェイズ。
回復直後のゆきちゃん選手は、当然これを通す。シグニ、シグニ、シグニ、ルリグとテンポよく割られていくライフクロスからは、<シャテキ><1号><1号><ブラジャック>がお目見えだ。大きく試合は動かないが、<ブラジャック>は見落とせない。ゆきちゃん選手は厄介なレイヤー「レベル2以下のシグニの効果を受けない」を持つ、<ケセパサ>を喜んでバニッシュした。3-5。

(遊具がこれで完封される。アルフォウや花代などの止めデッキにも有効)

序盤からくるくるとライフクロスが動く試合だ。
レベル3へグロウしたゆきちゃん選手は、<1号><2号><ウンテイ>と展開し、ドローと<イシナゲンジョ>をバニッシュする。そしてこちらはメインフェイズに、<ぶりっつあーや>を展開した。
驚くイシイ選手の手元から、<スナカケ>がデッキトップに戻る。公開領域に1枚見える、序盤の点取り屋。アタックフェイズの宣告に、彼は「考えますね」と伝え、「ここで(ぶりっつを)貼ってくるのか……」と、意外とも思えるような声で呟いた。大きく息を吐き、「はい」と両の手を広げる。
シグニ、シグニ、シグニと割られるのは、<サーバント><イシナゲンジョ><フゥライ>。「バーストの不運は平等院平等……」とつぶやきながら、<フゥライ>のライフバーストで<ケセパサ>を加えた。ルリグはガードで、3-2。
ライフクロスは目まぐるしく動くも、試合はサクサクと進んでいく。ここまでは安泰、かのように見えた。

イシイ選手にターンが渡る。
ゆきちゃん選手のエナと手札の量を確認しながら、自分の手札を3枚裏向きで置き、次の手を考えている。「エクシードが3か……」と、<ゴースト・パーティ>をチャージし、自分の領域を眺めながら。

「スナカケどこやったっけ?」
数瞬の沈黙は、1枚のカードの行方を思い出させるには、長すぎる時間だった。
<ぶりっつあーや>でデッキトップに戻り、<フゥライ>のバーストで、デッキのどこかへ失踪したのだ。

(失踪しました)

「デッキトップじゃん!!プレミった!!!」
サーチ手段の<ゴースト・パーティ>は今やエナゾーン。仮に手札にあったとしても、<ぶりっつあーや>のエクシードで無効にされる。「公開領域に持ってきたのに、俺の脳みそどうなってんだよ……!?」と絶叫しつつ、「いや、結果一緒、か……?」と、レベル3へグロウ。「スナカケのカードをなくしちゃったのですか……」と、どこかから聞こえてくる。
「割り切り!」と吹っ切り、ルリグの出現時効果でコインを得る。<ケセパサ><ユキンコ>を並べ、<ユキンコ>の効果で正面の<ウンテイ>をバウンスし、<フゥライ>を添えてアタックフェイズだ。要求は1面のみだが、怪異のシグニたちはみな、レベル2以下のシグニの効果を受けず、パワーが上限しない。遊具たちが彼女らを破るのは、そうたやすくはないのだ。
ゆきちゃん選手は<ぶりっつあーや>のエクシード2で、ライフを狙う<ユキンコ>をダウン凍結。手札にサーバントがなく、ルリグアタックのみを受けてターンエンド。2-2。

「サーバントがないってどういうことよ……」と、イシイ選手ほどではないが、こちらも嘆きが止まらない。
場の<2号>をチャージし、レベル4へグロウ。「まあまあ考えますね……」と手を止め、悩み、<ブラジャック>を回収した。そして<エニグマ>。「カットインお願いします」という言葉の通り、下敷きを吐かせるための一手。その意図通り、<ぶりっつあーや>のエクシード1で止められた。のであれば。
「パンプするレイヤーいますか?」という問いかけに、イシイ選手は「いませんよ」と明るく応じる。場の<ケセパサ>が<2号>による除去を防ぎ、<フゥライ>が<ニホニンギョ>たちのパワーダウンを許さない。遊具の機構がロックされた盤面を前に、ゆきちゃん選手はゆっくり動く。<2号>から<ウンテイ>でエナチャージし、ウリスのコイン技を発動。デッキボトムに<ニホニンギョ>を、手札にサーバントを、エナゾーンに<エニグマ>を置いて、リソースを整える。「<ケセパサ>がしんどいんよなあ……」と嘆きながら。
場を全てリムーブし、<ミヤコケシ>を2枚立てる。2枚の効果でデッキの上から<ブラジャック><3号>を加え、<フゥライ>の正面に<ニホニンギョ>を置く。アタックフェイズ。「何もないです」と、アーツの宣言も、要求もないことをさらりと伝えた。
一見、さらりとした0面要求のターン。ルリグアタックのみを防ぐか受けるかすれば、あっさりとターンが終わるはずなのだが。

(2号。3人の中で採用枚数が一番少ない時期もあったりした)

「難しい……!ウィクロスってこんなに難しいっけ……!?」
イシイ選手は両の手で頭を抱えながら、乾いた声を漏らしていた。<フゥライ>を守るか否かの判断が、彼を襲っている。ゆきちゃん選手の<ぶりっつあーや>で<ゴスパ>を封じられている状況などから、ここで<フゥライ>を失うと、何らかの不都合が生じるかもしれない、という状況なのだろうか。
迷い抜いた果てに、イシイ選手は<ぶりっつあーや>のエクシード2を発動。<ニホニンギョ>をダウン凍結させ、<フゥライ>を守る選択をした。ルリグアタックのみが通り、2-1でターンエンド。

イシイ選手にターンがわたる。<ケセパサ>をチャージし、レベル4へグロウ。4はグロウコストが0の<++>だ。出現時効果で、レイヤーを持つシグニ2体をデッキからサーチできる。
<ヌエ><オワレ><タマモゼン><スナカケ>……。「仕方ないけど……。<フゥライ>の位置がなあ……。仕方ないんだけど……」とつぶやきながら、虚空を見やり、指で場をなぞり、考える。苦い表情で山札を見つめながら、悩んだ果てに、<ヌエ><スナカケ>を呼び寄せた。
「難しい……」と漏らしつつ、<ミヤコケシ>の正面に<スナカケ>を立てる。そしてダウン状態の<ユキンコ>に対して、<ゴーストパーティー>を発動した。ゆきちゃん選手の<ぶりっつあーや>の下敷きを抜くための行為に、しかし彼は応じなかった。

(ライフバースト封じとトラッシュ肥やし、レイヤーコピー。痒い所に手が届く)

「デッキからサーチでしたっけ?どうぞ」と、差し出された彼の手に、イシイ選手は目を丸くした。「通るのか……。通った時のこと、考えてなかった……。いや、そうだよな……」と、<タマモゼン>をサーチする。
場の<スナカケ>をリムーブし、<オワレ>が中央に登場。起動効果で<イシナゲンジョ><フゥライ><カラテン><タマモゼン>をデッキに戻し、シグニ耐性を得た。場の<フゥライ>がトラッシュの<スナカケ>のレイヤーを得て、アタックフェイズ。1面が空いており、要求は、ランサーを持った<オワレ>のみだ。
ゆきちゃん選手は残り2枚のエクシードを使って、<ぶりっつあーや>で要求の<オワレ>をダウン凍結。レベル3が取り除かれた時の効果で、トラッシュから<シャテキ>を拾った。ルリグアタックはガードされ、変わらず2-1でターンエンドだ。

結果的に、<スナカケ>のランサーで一気にライフを奪うことはなかった。2枚のライフクロスを抱えさせた状態で、ウリスを紡ぐ者にグロウさせてしまう。
ドーナ側としては「紡ぐ者のライフクロスを0にし、アーツを吐かせ、サーバントを<ヒトダマ>で怪異にし、アサシンで〆る」というルートを取りたかったところだが、イシイ選手はレベル5以降の受けを意識してボードを作っているようだ。シグニゾーンを1面開けているのは、例えば「<ブラジャック>の効果を<サトリーナ>で消し、<コール・ワンダー>などで軽く防御し、リソースを残して5に乗る」というプランなのだろうか。イシイ選手の意図は読み取れないが、このターンは防御寄り、といったところか。

(貴様持ってるな!)

であればウリスは、紡ぐ者は、それを貫く攻めを作り出せばよいだけのこと。
手札の<ジルドレイ>をチャージし、レベル5<紡ぐ者>へグロウ。盤面に残る<ミヤコケシ>2体が、<オキクドール>を立て続けに手札に寄せた。
動き出す。場の3枚でレゾナし、<オワレ>の正面に<フラコスタ>。エナゾーンの<ジルドレイ>をコストにルリグの起動効果を使い、<フラコスタ>の効果対象には、シグニ耐性を持つ<オワレ>を選んだ。場を1枚しか開けさせない立ち回りで、<コール・ワンダー>のベット効果を使わせなくなるプランなのか。
「このターンでやれることはあまりないかもな……」と、<ブラジャック>から<ニホニンギョ>を蘇生。白シグニの<1号>を拾うと、<フラコスタ>以外をリムーブ。再び<ブラジャック><ニホニンギョ>と動かし、<ブラジャック>を回収し、アタックフェイズだ。正面が空いた<ブラジャック>が完全耐性を持つ。

「えっと……」と慌てるイシイ選手は、<ネームレス・フィアー>で応じた。ベットはなし。「相手のシグニを1体バウンスし、手札を1枚捨てる」モードを2度使い、<フラコスタ><ニホニンギョ>をバウンスした。
連続攻撃の起点となる<ブラジャック>も、隣がいなければ怖くない。<ネームレス>のみで要求を通されたゆきちゃん選手は、<ブラジャック>でアタック。最後のライフクロス<スナカケ>のバーストで1ドローの後、ルリグアタックはガードで、ターンエンドだ。2-0と、ここでイシイ選手のライフが尽きた。

(シグニ止めもルリグ止めも自由自在。非常に優秀な防御アーツ)

2ドロー。場の<オワレ>をチャージし、「若干バカタレポイントか……?」とぼやく。「甘えか……?激甘か……?」と、脳裏に描く要求の甘さを嘆きながら、「とりあえずグロウですね」と、ようやっとレベル5へ乗った。
<カラテン>を中央に立て、<ブラジャック>の正面に<ザシワラ>を置き、効果発動。「いるよな……?」と不安になりながら、デッキから<ユキンコ>をサーチした。そしてアタックフェイズ。ドーナの効果で、返しの防御を見越してのことだろうか、トラッシュから<ユキンコ>を拾った。
ゆきちゃん選手はスムーズに、<メイジ>の蘇生で要求に応じた。<カラテン>の正面に呼び出し、要求を通す。<フゥライ>のアタックは、手札の<1号>を捨てることで受け流した。ルリグは通らず、2-0。「どこまで行っても激甘なんだよな……」と、イシイ選手は自虐的にぼやく。

とはいえ、ドーナの盤面もかなり固い。「<カラテン>すごくね?」と戸惑うゆきちゃん選手。「パワー15000以上のシグニの効果を受けない」レイヤー能力を持っており、<フラコスタ>での除去ができない。そんなシグニを前にしても、しかし慌てた様子はない。
ひとまず<3号>で<2号>を加え、<オキクドール>を出現。<カラテン>のパワーを4000にした。その3枚でレゾナし、<フラコスタ>。手札の<2号>が<シャテキ>を呼び寄せ、パワーが4000となった<カラテン>をバニッシュだ。
そして、レゾナ以外をリムーブし、<ブラジャック>からの<ニホニンギョ>。別の<ブラジャック>を拾うと、<フラコスタ>の効果で<ザシワラ>をエナに飛ばし、ルリグ効果を起動し、アタックフェイズだ。何の問題もなく要求へこぎつける。完全耐性は、無論<ブラジャック>だ。

(パワー15000以上のシグニの効果をシャットアウト。2ドローもドーナにはありがたい)

ドーナのアタックフェイズ開始時効果で、トラッシュから<タマモゼン>を手札に加える。「少し考えます」と、イシイ選手は頭を抱えた。「……しゃーないかあ」と、ドーナのコイン効果を発動する。
場の<フゥライ>を手札に戻し、手札から<タマモゼン><ユキンコ><ユキンコ>が登場。<ブラジャック>が防ぐことのできない手札からの出現こそ、ドーナが誇る最大の防御だ。<タマモゼン>が<ニホニンギョ>の正面に降り立ち、2体の<フゥライ>が<フラコスタ><ニホニンギョ>を飛ばす。ルリグアタックもスキップされ、さすがの遊具たちも、これを突き崩すことはできない。ターンエンド。

決勝戦の時間は無制限。40分はもう超えた頃だろうか。
両者とも思考を突き詰め、1枚しかない世界への切符を巡って戦っている。

イシイ選手のターン。1体の<ユキンコ>をチャージし、<フゥライ>を立て、<スナカケ>の持つ「ランサー」のレイヤーをコピー。そのままアタックフェイズだ。ドーナの能力は、<ユキンコ>へのアサシン付与。とんとんとんと、流れるように盤面が整う。
ゆきちゃん選手は迷うことなく、<フォーカラー・マイアズマ>でそれに応じた。<フゥライ>の正面に<オキクドール>を蘇生し、トラッシュから<1号>を回収。<フゥライ>のパワーを4000にすることで、<スナカケ>によるランサーを封じた。残る<タマモゼン><ユキンコ>の要求は、2枚の<1号>を捨てることでシャットアウト。ルリグアタックも、紡ぐの効果で無効だ。2−0のまま、ターンが動く。

ゆきちゃん選手のターン。
<ニホニンギョ>を立て、3枚の遊具でまたも<フラコスタ>をレゾナだ。その効果で<タマモゼン>をエナに送ると、ルリグ起動でシャットアウト。<ブラジャック>からの<ニホニンギョ>。効果で<ブラジャック>を回収。
アタックフェイズ。<ブラジャック>に完全耐性。何度も何度も、最強の遊具が襲いかかる。

(1体でもシグニを残すと、エサに連続攻撃が動き出す。火力は<プリキャス>の比ではない)

「いやあ……、これ負けかあ……。やっちゃったなあ……!」
必死の形相でトラッシュを漁りながら、イシイ選手が絶叫した。
ドーナの効果で<ユキンコ>を拾いながら、しかし「……なんでライフ2も残ってんのさあ?」と、減らない盾を見つめて嘆く。「悠長すぎたかあ」と、声にならない言葉が、かすかに漏れた。

ふうっ、と息を吐く。
このターンは耐えられるかもしれない。先ほどと同じようにコイン技を使えば、場の他の怪異と組み合わせて耐えられるだろう。<ブラジャック>が絡むとはいえ、1体の蘇生であれば何とかなるかもしれない。<フゥライ><ケセパサ>を絡めて、このターンは生き延びられる。はず。

「まだ……、ワンチャンある……?いや無理……?3点目が通らな……?」

しかしその後が続かない。
相手のライフは2。白い遊具を手札に抱えた紡ぐ者を相手に、2点は遠く、果てしない。
アーツも残っている。次の猛攻を凌ぐ手立ては、もうない。

「負けました」

はっきりとそう伝え、イシイ選手はがくりと、うなだれた。

WIN ゆきちゃん選手

〜こぼれ話〜

「イシイさん勝ってたよ!!!」

試合を観戦していた彼の友人たちが、左右から口々に飛び出した。
「えっ?」と戸惑うイシイ選手を前に、ゆきちゃん選手もまた、「レベル4の時、危なかったです」と振り返った。
両者レベル4で、ゆきちゃん選手の残すアーツは<フォーカラー>と<奇跡世代>。彼のエナゾーンには、マルチエナも緑エナもなく、<奇跡世代>の発動はできなかった。
彼のライフは2。つまりここで、「ランサー2面」と「ランサー以外の要求」、つまり<ネコマター>を用意すれば、ゲームエンドまで行っていた可能性があった、という。パワーダウンは<フゥライ>で、ライフバースト対策は<ヌエ>で行い、足りないレイヤー能力は<フゥライ>で共有すれば良い。
そんなやりとりを、イシイ選手はぼうっと聞いていた。


(これ)

「……見えてなかった」

かすかに唇を震わせながら、そう漏らした。徐々にその時の記憶が蘇ってきたのだろう。

「受けのことだけ考えてた。次の、紡ぐに乗った後のこと」

つい最近、彼は紡ぐ者と対戦したという。
その時は言われたように、かなり前のめりな盤面を作り、相手をレベル5にグロウさせる前に倒そうと画策し、そう動いたとのことだ。しかし何かのボタンのかけ違いでうまくいかず、返り討ちにあった。
だから今回は慎重に立ち回った。脳裏によぎり、防御に寄せ、そして負けた。

「一生悔やむ・・・っ!」

試合中に彼が発していた嘆き節とは全く異なる声色。
そこにあったのは、心の底からの悔しさだった。

デッキレシピ