「この間ノーバーストで負けさせられたの、こいつ、まだ根に持ってるんですよ」
いつぞやの対戦を思い返しながら、シロネコ選手が笑いかけた。
動画「週刊エモ太郎」の投稿主の1人であり、カードゲーマー誌でも記事を手掛ける強豪プレイヤー。いつものように気さくに話しながら、のんびりとデッキをシャッフルしている。
「ね、ウルシハ」
「それは周知の事実」
そんな彼の言葉に、対戦相手となったウルシハ選手はさらりと返した。彼もまた名の知れた強豪プレイヤー。各地のセレモニーで勝利の限りを尽くす姿から、いつしかついた異名は「ウィクロスモンスター」。
黙々と、淡々とカードをさばく姿が印象的だが、今日はどこかリラックスしているようにも見える。
決勝トーナメント1回戦という、予選突破の安心感が残る場所。対面に座るのは、気心の知れた友人。そして何より、予選では一度、ウルシハ選手がシロネコ選手を下している。
「よー俺を<フォルネウス>で惑わしてくれたな」
「配置ミスったんでしょ?」
先攻はシロネコ選手で、両者3枚のマリガンから試合開始だ。
リラックスムードもここまで。「オープン!」のアナウンスと共に、ぴりっと空気が張り詰めた。
シロネコ選手(カーニバル)VSウルシハ選手(ウリス)
(チア実装後初のカバレージです)
シロネコ選手のルリグはカーニバル。チャージを経てグロウし、手札を切ってコインを得た。
<タネガスペ>からデッキトップの<ヒミコ>を加える。ここまでは往年の「MAIS」の動きだが、時代はアンブレイカブルセレクター。次に飛び出すは<カプスワン>だ。早速起動し、「ライフ見るねー」と楽しそうにデッキの束を眺めていく。
「<サンスポット>の枚数だけ見とくかあ」との言葉通り、シロネコ選手のデッキは現在大流行中の、<QB>で戦う4止めのカーニバル。<サンスポット>のアグロ性能と、<炎真爛漫>や<QB>によるガード制約やリソース奪取に長けた、新時代のカーニバルデッキだ。「スロットカーニバル」「スロカニ」でお馴染みといえば、わかりやすいだろうか。
「楽しい戦いになりそうだ」と、<カプスワン>で別の<カプスワン>を加え、ターンエンド。
対するウルシハ選手のルリグはウリス。多くのルリグで数々の実績を残す彼にとっても、特に使い慣れたルリグだ。「<エニグマ>打ちたいんだけど」と<ミミック>をエナに置き、レベル1へグロウ。コインを得て、空いたシグニゾーンの前に<アリトン>を、<タネガスペ>の前に<フォルネウス>を配置しアタックだ。
シロネコ選手に止める理由もなく、<フォルネウス>がアタック。デッキトップの<バアル>がエナに行くと、続けて<アリトン>がライフを割る。バーストの<ヒミコ>が成功し、その<アリトン>がバニッシュされると、ルリグアタック。これは防がれ、6−7でターンが渡った。
(キーセレクションで登場した青の悪魔。他色シグニはオールスターにも影響を与えた)
続くシロネコ選手の展開は速かった。手札から<アルベド>をチャージして、レベル2へグロウ。コインを得ると、そのまま<ぶりっつあーや>をアンロック。<フォルネウス>をデッキトップに置けば、場に残る<タネガスペ>と<カプスワン>、先ほど加えた<カプスワン>でさらりと3面要求だ。アタックフェイズ。ウルシハ選手はこれを通した。
ライフクロスが小気味よく割れていく。<エニグマ・オーラ><メツム><マモン>、そしてルリグアタックも通って、<バアル>。バーストはあれど、被ダメージがずれることはなく、ウルシハ選手のライフクロスは3枚と、一気に危険水域まで追い込まれた。
ターンが渡る。<エニグマ・オーラ>を擁するウリスであれば、序盤にいくらライフが減ろうと大きな問題ではない。だがシロネコ選手の場には、スペルを封じる<ぶりっつあーや>が置かれている。「<エニグマ>打ちたいんだけど」と試合開始時にウルシハ選手が漏らした通り、スペルを使うことは容易ではない。その判断からか、エナチャージは<バイオレンス・ジェラシー>。レベル2へグロウだ。
<フォルネウス><ナマハゲ><アリトン>を立ててアタックフェイズ。地上の要求はない。これが通り、<フォルネウス>が<ウァレフォル>をエナに置く。ルリグアタックも通るが、エナから見えたのは青の<ダイホウイカ>だった。手札が増えるが、エナに赤は少ない。5−3と、ライフクロスではシロネコ選手が優位のまま、ターンが渡る。
シロネコ選手は手を緩めない。場のタネガスペをチャージし、レベル3へグロウ。「コインはいらねえよ」と、コスト不足を一切気に介さないシロネコ選手は、まず先手を打った。
<ノベアン>をヒットさせ<ナマハゲ>をバニッシュすると、場の<カプスワン>2体をリムーブ。立て続けにルリグデッキに手をかけ、迷わず<ビカム・ユー>を発動。トラッシュから別の<ノベアン>を回収すると、そのまま場に出し、またヒット。<フォルネウス>をバニッシュすると、パワー1000の<アリトン>の前に<ケプリ>を立て、一気に3面要求だ。
(現代オールスターの必須カード)
ギアを一気に上げていく。デッキトップは<ノベアン>で見えた、レベル4の<ビッグ=ヴァン>。「無敵よ」と胸を張るシロネコ選手を前に、さすがのウルシハ選手も「うーん……」と苦しそうだ。仕方なさげに<フォーカラー=マイアズマ>で応じていく。<ノベアン>を溶かし、<ナマハゲ>を別の<ノベアン>の前に蘇生。残るモードは7枚落とし。シロネコ選手のデッキトップをずらしながら、地上の2点を防ぎつつ、<ナマハゲ>の効果で1エナを増やし、シロネコ選手の要求を通した。
デッキトップがずれたとはいえ、大半のカードがレベル4となるカーニバル。残念ながら<ケプリ>はヒットし、<アリトン>を焼きながら1点。ルリグアタックも通り、5−1で序盤の攻防が終わった。
序盤から押し込まれるウルシハ選手。<ぶりっつ>に腐らされた<エニグマ>をエナチャージし、レベル3へグロウ。トラッシュやエナ数を確認しながら、じっくりと思考に入った。
「ネコ、デッキ何枚?」「11枚」「手札は?」「6だよ」。短いやり取りが交わされたところで、ウルシハ選手がルリグデッキに手をかける。表になるのは<ビカム・ユー>だ。ウリスがレベル4の<奈落>にグロウする。先攻と後攻をひっくり返し、一転攻勢、たたみかける。
出現時効果で<アスモデ>を拾うと、そのまま場に出しチアゾーンへ置く。続けて<奈落>のコイン効果を発動。<パルヴァ>を回収し、<マモン>をエナに置き、デッキボトムには<バアル>を送った。回収した<パルヴァ>を場に出し、<アリトン>を捨て、ウルシハ選手はふと手を止める。「あれをこうして、こうだから」と、手順を確かめながら、反撃の道筋をたどっていく。
<パルヴァ>の効果では<ウァレフォル>を拾う。チャームとなった<アリトン>をコストに、<バイジェ>を拾うのも忘れない。そして<ウァレフォル>を<ケプリ>の前に立てて、アタックフェイズだ。正面の空いた<パルヴァ>、アタックトリガーを持つ<ウァレフォル>、そしてチアシグニと<ナマハゲ>で、きっちり3点要求の盤面を作り上げる。
シロネコ選手はしぶしぶといった表情で、<ぶりっつあーや>のエクシード2を発動。場の<パルヴァ>をダウン凍結して、残りを通した。<アスモデ>で正面を空けた<ナマハゲ>と、<ケプリ>を溶かした<ウァレフォル>の2点が通る。ルリグは止まり、3-1でターンを終えた。
(防御にスペルカットインに大活躍の1枚。アタックフェイズに発動できるのが非常に強力)
遅れて、シロネコ選手もレベル4の<QB>へグロウ。まずは<ビッグ=ヴァン>をチアゾーンに送り、起動効果。レベル4扱いとなった<タネガスペ>をコストに、<ガイテン>と<サンスポット>をサーチ。続けて<インパクト>を場に出し、正面の<パルヴァ>をバニッシュ。<サンスポット><サンスポット>、そして<炎真爛漫>。流れるように盤面を整え、カーニバルの起動効果を発動した。
ウルシハ選手のエナとトラッシュを見る。宣言するカードは<サーバントT2>だ。アタックフェイズ。<炎真爛漫>で1を宣言すると、コイン技の「ジョーカー」で、<サンスポット>の正面の<ウァレフォル>を手札に返し、ウルシハ選手の手札を広げさせた。戻った<ウァレフォル>に加え、<バイジェ><エニグマ><メツミ><メツミ>、そして<ドリーミー>。「鯖ねえのか」と小さくつぶやくと、戻した<ウァレフォル>を指名。ウルシハ選手は位置を変え、<インパクト>の正面にそれを置いた。ウルシハ選手のアーツ使用ステップに移る。再びの長考。
「これで勝てない?」
「全然平気」
シロネコ選手の問いかけを、にべもなく返すウルシハ選手。まずは場の<ナマハゲ>と<ウァレフォル>をトラッシュに送り、<インパクト>の正面に<ドリーミー>を立てた。<ドリーミー>が<サンスポット>を焼くと、続けて<ダーク・コグネイト>。手札の<メツミ>2枚を落とし、もう1枚の<サンスポット>を除去。地上の要求はこれでストップだ。
<インパクト>が<ドリーミー>を殴り、ルリグアタックが通る。見えたライフは<アスモデ>だ。思わず「これ助かるわ」と、ウルシハ選手はライフバーストの効果で、手札を捨ててライフを回復。「やっぱ色々と根に持ってんじゃん!」と嘆くシロネコ選手を尻目に、ライフは変わらずターンが終わる。手札や場をトラッシュに変換し、レベル5を見据えたかのように動いた。ライフは3−1と変わらない。
(カーニバルの点取り屋。<ビッグ=ヴァン>と組み合わせることで、一度のアタックで最大3枚のライフを叩き割る)
「埋まったカードが<シヴァ>だったら一番強いんだよね」と笑うウルシハ選手。レベル5の<邪眼ウリス>にグロウすると、まずは引いてきた<ジルドレイ>を場に出し、<パルヴァ><アリトン>を回収した。「あー、これ<爛漫>もらえるのか」と、シロネコ選手のルリグトラッシュにある<炎真爛漫>を<ジルドレイ>でコピーすると、回収した<パルヴァ>を場に出し、<アリトン>を切りながら<メツミ>を回収。そのまま<メツミ>でお互いのデッキを5枚落とすと、シロネコ選手がここでリフレッシュだ。
「アタックかな……、あー、いや、これはまずいのか」と、ウルシハ選手が手を止める。<メツミ>をリムーブし、場のチャームをコストに<ウァレフォル>を蘇生。「ジョーカー」でメツミを出し入れされることで、自身のリフレッシュを防ぐ立ち回りだ。これで今度こそ、アタックフェイズ。<爛漫>の宣言は4だ。
シロネコ選手が一気に追い込まれる。<ぶりっつ>のエクシードでチアゾーンの<アスモデ>をダウン凍結させ、<ハッピー5>で<ウァレフォル>を止めた。<爛漫>の制約で、打てるアーツはこれまで。アサシンによる残り2点は、通すしかない。
1点、2点と通り、ウリスのルリグアタックが通る。ウルシハ選手のトラッシュには、悪魔シグニが18枚。シロネコ選手のデッキから18枚がトラッシュに落ちるも、リフレッシュとはいかず、レベル4の宣言も、3でガードして事なきを得た。
ライフクロスは0−1と、ここでシロネコ選手が逆転された。
シロネコ選手のターン。手札から<カプスワン>をチャージすると、<ビッグ=ヴァン>を場に出し、チアゾーンに置く。そのまま効果で<ノベアン>をサーチすると、別の<タネガスペ>を場に出し、デッキトップの<ヒミコ>を加えた。ルリグの起動効果で<ジルドレイ>をサーバントZEROに書き換え、先ほど加えた<ノベアン>で、サーバントZEROになった<ジルドレイ>をバニッシュ。そして<タネガスペ>で、見えていた<ヒミコ>を加えてリフレッシュ。デッキを回復させ、場を整え、すんなりとアタックフェイズだ。<爛漫>のガード宣言は1。ウルシハ選手は間髪入れずに、ウリスのエクシード5を選んだ。場のシグニが全てはじけ飛ぶ。
(デッキ破壊に特化した最新のルリグ。ウリスらしい効果が詰め込まれている)
ルリグアタックを前に、シロネコ選手が手を止めた。「1枚までなら誤差なんだけど、微妙か……?」と、ライフクロスやエナをみやりながら、じっと考える。結局残り1枚のライフクロスは、カーニバルのルリグアタックで割れた。と同時に、エナのジルドレイがトラッシュに送られる。ライフクロスからは<マモン>。お互いのライフクロスが全て消え、静かにターンが終わった。
「<ぶりっつ>ないよね」と、ウルシハ選手がホッとしたような声を漏らす。ようやくスペルカットインの呪縛から解き放たれたが、あと1つ乗り越えなければならない。手札から<D2>をチャージし、<バイジェ>で<ジルドレイ>を回収しようとする。「<ハッピー5>打つよね?」という言葉を、シロネコ選手に向けながら。
シロネコ選手は迷いながらも、「手札1だよね?止めなきゃダメでしょ」と、スペルカットインで応じた。対象となった<ジルドレイ>と、<サーバントT2>を除外する。
予期していた状況ではあるが、「ワンチャン作りにいくしかないか……」と、ウルシハ選手が意を決したように動き始めた。エナは7、手札は1枚。手札から出したのは、頼みの綱の<バアル>だ。起動効果で、残り1枚のデッキをめくる。トップは<バアル>。リフレッシュ。つながった。
「ここから<アスモデ>探しに行くぞ」と、次の<バアル>を起動。見えたのは無情にも<サーバントO2>だったが、まだまだつながる。
<邪眼>の起動効果でデッキを掘っていき、<バイジェ>へアクセスできれば、続く。まずは1回目の起動効果を発動。6枚の中の<アリトン>が、場の<バアル>のチャームとなった。2度目の起動効果で、また6枚。<バイジェ><アスモデ>、そして<アリトン>も落ちる。「ここから……」と、ウルシハ選手の小さな声が聞こえた。
(ウリスのチアシグニ。アタックでの回復や盤面の回復など、強力な効果が詰め込まれた1枚)
チャームを1枚はがし、<バイジェ>を拾う。じっくりとトラッシュを見つめ、拾った<バイジェ>で<ザロウ>を回収した。もう1枚のチャームをはがし、再び<バイジェ>を拾うと、ダウン状態の<バアル>2体を素材に<ザロウ>をライズだ。起動効果で<アスモデ>を拾い、場に出す。<アスモデ>はチアゾーンに送らず、起動効果で手札の<バイジェ>をコストに、<フォルネウス>を場に出した。アタックフェイズ。
執念で作り上げた3面要求も、ウルシハ選手は「<炎のタマ>でしょ?」とあっさり聞く。「まあね」と、そのカードを見せるシロネコ選手。敗北がなくなった彼の前で、しかしシグニとルリグを動かしていく。<アスモデ>のアタックで<ドリーミー>をライフに加え、<フォルネウス>でエナチャージ。<邪眼ウリス>のアタックで、シロネコ選手のデッキを6枚落とし、ターンを終えた。
「1面も割っちゃだめで、宣言がエナの<マモン>で確定で」と、シロネコ選手は詰めていく。言葉の通り、起動効果で<マモン>を宣言し、ウルシハ選手のエナを黒2無色1へとずらした。
<アスモデ>の正面に<ヒミコ>を出し、デッキから<ヒミコ><サンスポット><カプスワン>を回収。<ビッグ=ヴァン>をチアに送り、<コニプラ>を捨てて<アルベド><エラキス>を加えた。<サンスポット>の出現時効果でデッキから<タネガスペ>を拾い、<サンスポット>をリムーブ。<ヒミコ>の2枚目を立てたところで。
「ここまでだね」とウルシハ選手が投了した。
勝者 シロネコ選手